やる気スイッチの料金
たまに子どもと一緒にテレビを見て、そのあとで話を再構成させてみると、誰と誰が味方どうしかとか、誰と誰が悪者で地球の征服を企んでいるのかというような基本的な起承転結の構図すらわかっていないことに驚きます。
主人公が「変身」するなどの単純な興奮が楽しみで番組を見ているということが存外多いのです。
そこで、子どもだけで番組を見た後にでも「どうなったの? 教えて」などと言って、あらすじを再構成させてみましよう。
積み重ねると、プロットを鳥瞰的に見るという訓練をさせることができます。
子どもによっては、あらすじに関係のない細部だけを再現する場合があります。
たとえば、「変身して面白かった」とか、戦いのシーンで、「頭の上からお鍋が落ちてきて面白かった」というような細部だけを再現するのです。
ストー 心リーの必然性というか、流れが全然わかっていないことがあります。
そういう子どもは、自分にとって面白かったけれども、あらすじに関係のない細部を生き生きと語ります。
そういうとき、一応聞き終えてから(忍耐がいりますよ!)、「それで結局、その悪者はどうなったの?」「誰がお姫様を助けることになったの?」などと尋ねます。
訂正されると子どもは面白くなくなり、次第にこの種の親との会話を嫌がるようになってしまいます。
間違っていても、聞き流してかまいません。
あるいは、せいぜい少し再考を促してみるくらいで十分なのです。
もう見てしまった話のストーリーはどうでもいいのです。
その会話によって、細部の面白さのほかにストーリーの面白さがあることに気づき、つぎにテレビ番組を見るときにストーリーに注目してくれればいいのです。
年齢の近い兄弟では、年少の子どものほうが、この能力に相対的に長けていることがあります。
下の子どもははじめから兄弟のいる人間関係を経験し、上の子どもの友人関係などを見てきていますから、いつの間にか、この種のスキーマ(思考の枠組)がかえって早くそなわっていることが多いのです。
そんなことがわかるのも、あらすじを尋ねるのを習慣にすることの副産物です。
ストーリーがかなり正確に把握できる子どもの場合でも、一緒にテレビを見て質問することは意味があります。
ストーリーがわかっているといっても、どこまで細かくわかっているかについては大きな個人差があります。
親に向かってストーリーを再現するという作業をつうじて、ストーリーを正確に把握する能力が高まってきます。
ストーリーを再現することは子どもにとってとても楽しいことです。
語尾、語調に力が入っているのがわかります。
その「力が入っている」というのが大切な要素です。
子どもはとくに自分が共感したことに感情移入して話します。
そのことによって感情移入する能力がそなわってくるのです。
読む力、人や社会を理解する力につながっていきます。
親が一緒に見たものでストーリーの再現をさせると、ちょっとした細部のストーリーのトリックを見落としていたりするのがみつけられます。
犯人が後で武器に転用しようとしているものをじっと見つめた瞬間があって、相当後でそれが実際に武器に転用されるというような場合、「それで、じっと見つめていたのだね」などと言って、気づかせてあげることで、面白さを実感することになります。
親が一緒に見ていないときは、子どもに「教えて」という感じでストーリーを尋ねてみます。
毎週毎週の続き物なら、見ていない親にストーリーを話すのが子どもの楽しみになるようにもちかけます。
ストーリーの説明が少し不自然で、よくわからないときは、わからないと素直に尋ねてみます。
子どもにとっては、自分がわかっていることを相手に伝わるように言うための苦心がいります。
場合によっては、ストーリーの説明を番組のなかでの展開とは異なる順序で話す工夫が必要なこともあります。
そういう苦心は大きな成長の糧になります。
そのようなやりとりのなかで、子どもはいわゆる5WIH(誰が、誰に、いつ、どこで、何を、どんなふうにした)に注目する構えを身につけていきます。
子どもにとって、後であらすじを誰かに話さなければならないという状況で番組を見るのは、かなり高度な認知作業になります。
部分的な面白さに溺れないで、あらすじ上、何か大切で何が大切でない要素かという区別を絶えずしながら見なければならないからです。
そういう見方を一日一度強いられることは、蓄積すると、何年か後に大きな違いとなって表れます。
後々、国語の長文問題をしっかり捉えられるかどうかはこのような差が積み重なって出てくる部分があります。
数巻にわたる長編小説を読むとか、ひとつのテーマで貫かれている一冊の本を読み通すという将来の知的活動にそなえることになるわけです。
このような努力は、後の勉強に大きく役立ちます。
そういう努力を「努力」と感じさせないで継続させるのが親の賢明な働きかけというものではないでしょうか。
子どもがテレビを見たいと言うとき、「じゃぁ先に勉強をすませてしまって、その後に見なさい」と言って許容するのが一般的なやり方です。
しつけという観点ではそれでいいのですが、記憶の効率という観点では、じつは逆なのです。
先にテレビを見させてから勉強させるのがいいのです。
勉強をした後でテレビを見ると、せっかく記憶した内容が頭に定着しにくいのです。
記憶を定着させるのにいちばんいいのは、すぐ眠ることです。
記憶課題をやった後、直後に眠る、一時間後に眠る、三時間後に眠るというように条件を分けて、記憶の定着を調べると、直後に眠った場合の記憶がいちばんいいことが実験でわかっています。
記憶課題後の同じ三時間なら三時間だとしても、そのあいだに何をしているかによって記憶の定着具合が違ってきます。
ぼんやりしているのがいちばんいいのです。
別種の勉強をしたり、新しいことをマスターしようとしたりすると、肝心の課題の記憶は定着しにくくなります。
情緒的に強い刺激を与えても、記憶の定着が妨げられることもわかっています。
テレビ番組は、視覚的刺激、聴覚的刺激、情緒的刺激のすべてをふんだんに発信します。
記憶の定着を妨げないはずがありません。
せっかく勉強しても、その後でテレビを見れば台無しです。
暗記物ならとくにそうです。
生活のなかで、勉強の後、なるべくすぐに就寝するように、勉強の直後にはテレビを見ないようにするのが大きな工夫なのです。
テレビを見ながら家族が食事をするのが、一家団楽のひとつの姿になっている家も多いと思います。
私は、あまりしないほうがよいと思います。
食事をするなら食事、テレビを見るならテレビを見るのがよいと思うのです。
いちばん問題だと感じるのは、ひとつのことにきちんと注意を向けるという習慣の形成がうまくいかなくなるのではないかということです。
洞察の必要な数学の問題を解くとか、論点の入り組んだ文章をきちんと読みこなすという行為は、ピークの高い集中力を必要とします。
そういう瞬発的な集中力を発揮する鍛錬は、テレビを見ながら食事をするという習慣があると、うまくいかないような気がします。
それが理由のひとつです。
同じ理由で、テレビを見ながら音楽を聴きながら漢字の O練習をするなどということも問題外だと考えています。
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